心療内科医笹田信五カウンセリングルーム

  お父さん、お母さん、

「自分の山」を登ってください



  木々の緑が深くなってきました。爽やかな初夏の日です。本日、おとなしそうな青年がご両親とともに来られました。

  神経症で精神衰弱状態ということです。数年前から急にやる気を無くし、何をやっても長続きしなくて、最近では自宅でゴロゴロとしている状態です。心配して両親がついて来られ、診察の後、私と話しがしたいということでお会いしました。

  このような場合は、ご本人に対するサポートとともに、家族に対するサポートも不可欠です。ご両親は、「息子をなんとか良くしてほしい。息子を変えよう」という思いでおられますが、これは間違いです。そのことを理解していただかないと治療は成功しませんので、お会い致します。

  そこでわたしが申し上げたことは、まず「息子さんの心を理解しょう」ということでした。心の中はパニック状態です。しかし、表面から見る限りおとなしそうな青年です。

  「ご両親の目には、気力がなくて、ただだらだらと働きもしないで、毎日暮らしているように見えるでしょうが、心の中では、不安や不満、頑張らなければと思う気持ちと、人の中に入れば人間関係で傷つくことのつらさ、自分を生きれない、生きていることの意味がわからないなどと、葛藤と自己分裂で苦しんでいます。

  しかも、心配をかけたくない。こんな軟弱な自分がなさけないという思いが強く、口にはだせません。まず、息子さんの心の中を理解しようとすることが第一です。」。このあたりまではよく理解できることなので話は進みます。

  さらに、「理解をすることは大事ですが、それだけでは解決法にはなりません。処方箋としては、ご両親自身が自分の山を登ってください。」と申し上げました。いつものことですが、この話になると一瞬奇妙な顔をされます。

  息子さんの相談に来ているのに、どうして自分の生き方が問題なのかすぐに理解できないのは当然でしょう。私の方も慣れています。全く理解ができそうでない場合は、この話はできません。もう少し、信頼関係ができてからということになります。

  ただ、本当に心配して悩み苦しんでいるお父さんやお母さんは以外と率直に聞いていただけることが多いですね。ほとんどの場合は、初対面で短時間なのにもかかわらず、私の話しの続きを聞きたいという雰囲気です。

  「世間の評価を気にしていませんか? 世間の価値観で自分や息子さんを測ろうとはしていませんか? それをしている限り解決はありません。」そのように申し上げました。

  お父さんやお母さんが、世間の評判を気にしている限り、ご両親自体が息子さんを攻撃していることになります。息子さんを否定していることになります。それでは、口で「本人の意思に任せています。ああせなさい。こうしなさい。といいわないようにしています。」と言っても、
無言で批判しています。追い詰めています。これでは、パニックに油を注いでいるようなものです。 

  しかし、親ですから、第三者のように穏やかに暖かく見守ることなど到底できません。心配なのは当然です。

  そこで「息子さんのことは時間がかかります。それに解決は息子さん自身が見いだして行くものです。ご両親はご両親の生き方の問題として、自分の山を登りましょう。本当の自分を生きることを練習しましょう。それが処方箋です。

  自分の山を登ることによってはじめて、世間の評価から自由になれます。本当の自分を生きていけば、失敗も成功もありません。自分が満ち足りて来ます。その姿が、結果として息子さんにもよい結果をもたらします」とお話ししました。

  お父さんは、他のことを話し出されました。ここへ来るまでの息子さんの経過とか、ここを知ったのは偶然で、最初は、他の施設へ行こうと思っていたとか、話がずれて来ます。お父さんには、自己防衛が働き始めているようです。これはむずかしいかなと思っていましたが、お母さんの方は、うなずいておられます。

  そこで、時間がないものですから、「自分の山を登るためには、生かされてるのは医学的事実であるということを発見することが一番大事なことです。この事実を原点とすることで初めて世間の価値観から自由になれるのです。

  自分で生きていると思っている限り、世間の評価から自由にはなれません。自分も息子さんも、世間の目で裁く事が続きますよ」と申しますと、お母さんは涙ぐんでおられました。短い時間なのに、随分心配されて来たのでしょう。かなり深く理解していだいたようです。

  その点、お父さんの方は自分のプライドのほうがまだ大切なようで、上滑りをしているようですが、わずかな時間で分かるはずはないのですから、これから、生かされてる医学の5つの発見を勉強をしていただく中で、深まっていただければと思います。

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